早田川秋の遡上まつり二日目

いつのまにそんな祭りが始まっていたのかは知りませんが、ともかく調査地の早田川はサケ科魚類の産卵期真っ只中。前回に引き続き、今日も合流部からの踏査を行いました。なお本日は県の水産試験場から研究員の方が二名おいでになり、その方々の調査に同行させて頂く形となりました。
調査項目は、
・遡上の確認および産卵床の有無*1
・産卵床の形成されている淵・瀬の規模や河川勾配
・産卵床の形状・大きさ
・流速および水質(EC,pH,濁度)
です。

さて、目視班と測量班に分かれ、上流へと踏査を進めていったのですが、途中で重大な問題に気付きました。遡上してるのサクラマスだけじゃないじゃないか。今まで気付かなかった僕もアホウなのですが、サケ(シロザケ)がいます。というか、シロザケのほうが多いです。さぁ大変。卒論のテーマに関わりかねないことですが、とりあえず今はおいておくことにします*2


ちなみに見分け方は以下の通り。


シロザケ↑:
ブナ毛と呼ばれる、黒い側線や紫色の縦線がみられる。大きいものでは80cmにもなり、ゴツゴツとした動き方をする(らしいです)


サクラマス↑:
銀色に黒の斑点、もしくは背びれの下にオレンジ・赤の模様が入っている黒色。シロザケに比べ小柄で、しなやかに動く



結局多くの産卵床データや目視データが揃い、データはこれでかなり揃ったと言えます。とはいえ整理・解析はこれからなので、調査の楽しさを思い出しながら少しずつやってゆきたいと思っています。

*1:実際に産卵が行われているかは卵が安定する10月後半に行うとのこと

*2:例としては卒論のタイトルを「〜サケ科魚類の遡上について」とする、という解決策がある

踏査の末に

僕の卒業論文のテーマはサクラマスの産卵床形成についてのものです。そのためには何が必要でしょうか。当然といえば当然なのですが、サクラマスが調査地に遡上してくることが必須条件なのです*1。で、産卵期真っ只中の本日、ついに遡上確認のための踏査が実施されました!
メンバーはリプトン先生、県水産試験場のIさん、学生は僕を筆頭にY口、Gちゃん、院生Sさんが続きます。

梵字川の合流部から入った僕らは早速ホッチャレ*2になった死骸を発見しました。リプトン先生曰く、「今年の出水はもの凄くて河床が全然変わっちゃったからどうかなぁ」とのことだったのですが、とりあえずここまでは遡上してきているということが確認された訳です。


川の中を覗きながら上を目指す僕らを、川の神は見捨てなかったようです。つまりはカムイチェプを追う僕らをサンピラタが見捨てなかったようです*3。第一砂防ダムまでたどり着いた頃には、目視で述べ25匹近いサクラマスを確認することができました。途中、瀬を登るサクラマスにGちゃんと僕が水しぶきを浴びせられるというびっくりハプニングもあり、テンションの高いまま踏査は終了しました。
第一砂防まで行った後、車で早田川の上流部、カミノコ沢周辺の踏査を行いました。

なお、この踏査によるリプトン先生のはしゃぎ具合は(表には出なかったものの)内心凄まじかったと思われ、次の日ひとりでもう一度遡上を見に行った、との報告が入っています。

*1:まぁ、上ってこないならこないで別のアプローチを考えざるを得ない、ということですが

*2:遡上した魚の尾びれや体がぼろぼろになっているさま。サケに対して使われる言葉。

*3:カムイチェプはサケ、サンピラタは川の神を指すアイヌ語。川の神様と言えば日本では弁財天、エジプトではハピなどがいますが、サンピラタを選んだのは個人的な好みです。

遠出でもない。

学祭にクラムボン来るらしいです


隣県宮城は東北大学まで、技術士第一次試験を受けに行ってきました。
僕が受験したのは環境部門ですが、他にも建設や橋梁、機械工学などなど理系のほぼ全てと言っても過言ではない程の分野の受験者が一同に介していました。当然か。休憩時間に中庭で若者からおじさんまでがみんな煙草を吸うもので、その一帯の空気が真っ白になっていたのが印象的でした。
一次試験は全てマークシートだったので内容そのものには特に触れませんが、僕は会場である川内キャンパスの部室棟が気になって正直試験どころではありませんでした。僕の通うキャンパスが山形の更に地方都市の単科独立キャンパスという理由もあるのですが、「これぞ大学生!」という感じのたたずまいを僕にみせてくれ、とても羨ましくなりました。そんなこんなで休憩時間は写真を撮ってばかりでした。次の試験の勉強?なにそれ?


にしても、一日で仙台-鶴岡間を行き来するのはあまりよろしくない傾向だと思われます。

いらさい

院生はでかい面してこそ。


僕の所属する河川環境研究室とお隣の農地環境研究室とで、この10月から正式に研究室に配属された3年生の合同歓迎会を行いました。少し遅くなりましたが、この春から院生として来たY田さんの歓迎会も同時に開催されました。
材料の買い出しに出かけ、昨日から附属演習林の管理棟を借り切って一泊二日の日程で行われたこの歓迎会は僕ら4年生が主催です。企画から日程調整、調理から送迎までなんでもござれです*1。メニューはおでんと手巻き寿司、そして炊き込みご飯。この建物を利用するのも3年目になったからか、さすがにみんなの動きっぷりもスムーズでした。
夜には担当教官のリプトン先生、M川先生も到着され、3年生を交えた楽しい飲み会となりました。深夜2時くらいまで宴は続いたといいます。
残念なのは農地研の3年生からの参加がなかったことですが、今後交流の場があれば話しかけてみようかと思っています。

*1:大学の施設のため、その研究室の教官に許可を取ればすぐに管理棟は借りることができるよ。

書を捨てよ、川へ出よう

平板なんて久しぶりだぁ


実にひと月ぶりの演習林になりました本日の調査。佐渡島行きと出稽古ゼミによるヒキコモリ生活から明け、やっと自分たちのフィールドに戻ることができます。我らが担当教官リプトン先生の教えである「川に入らないと頭が腐るんだなぁ」を守るべく、僕らは今日も川へ入ります。出場はO久保班の総メンバーからMさん、3年生のT美ちゃんを欠いた9名でした。

さて、今日の調査はGちゃんの調査地:早田川支流の大滝沢における測量でした。調査区間の平面図を作成するため、①足場が悪い②見通しが悪い③勾配がきつい という三重苦にも関わらず、林道を分け入り沢を登って平板測量を行いました。
が、行いましたとひと口に言ってもそう簡単ではありません。平板測量を行うには、基準点から距離を測る点までの見通しが良くなければなりません。しかし調査地は林の中で、しかも勾配がきつい沢です。僕らは必死で草を刈り、枝を上や下に押して視界を確保しました。
また同時に機械を使った勾配測量も行いました。簡単な河川の横断面図の作成に必要な情報として、ひとつの河川横断面から7点*1を抽出し、基準点からの距離を測ったからさぁ大変。午前中から午後3時までやった結果、進んだのは約30mです。いくら最初の測量で手際が悪かったとは言えあんまりです。残り150m。

*1:①右岸側の出水時の水面があったであろう地点、②右岸側の植生が切れている地点、③右岸の水面幅、④流心、⑤左岸の水面幅、⑥左岸側の植生が切れている地点、⑦左岸側の出水時水面

祭りのあと

お隣の研究室。


出稽古ゼミの後はじめて研究室の面々が揃いました。十月と十一月の調査の日取りを決めるためです。先日のゼミでやらなければならないことが見えてきたとは言え、その全てをこなすわけにも行きません。残された時間で何が出来、何ができないか。この点を肝に銘じてこの先の大学生活を送らなければなりません。なんだか世知辛いなぁ。

平成17年度出稽古ゼミ総まとめ

みんなおつかれさま。


僕の所属する講座*1では、毎年夏休みの末に大きな行事があります。それが出稽古ゼミと呼ばれる卒論中間発表会で、僕たちはそこで現在までの研究の経過をPowerPointやレジュメを使って他の研究室の教授に見てもらい、批評を頂きます。
自分たちの専門以外のひとのところに教えを仰ぎにいくから「出稽古」ゼミ。どれくらい前に誰がつけたか分からないネーミングですが、実に的を射ていると思います。


前置きはそのへんにして、その出稽古で頂いた指摘などをまとめておこうと思います。


発表の要約:

テーマ:砂防ダム下流部におけるサクラマスの産卵床について

研究の背景
自然河川と砂防ダムのある河川を比較した場合、自然河川では山間部から下流への砂礫の供給があるのに対し、砂防ダムのある河川においてはダム下流への砂礫の供給が少なくなる。これは砂防ダムそのものに砂礫や土砂を堆積させ、土砂災害を防ぐ働きがあるためである。
また堤体の有無という点に関して、自然河川では最上流部まで魚類の遡上が可能であるのに対し、砂防ダムのある河川では堤体が魚類、ここではサクラマスの遡上を阻害している。

目的
近年、砂防ダムの構造の再検討がなされていることから、ダム下流の産卵床形成条件を知ることは、自然に配慮した構造物をつくる指針となると考えられる。
本研究では砂防ダム下流域でサクラマスが産卵床をつくる際の環境を調査し、基礎的な物理環境を把握することを目的とした。

調査とその結果
踏査を行い、調査流域のの淵の数、長さ、最深部の水深、産卵床条件が整っているかなどの視点で淵を調査した。また8月に発生した出水により大規模な攪乱が起きたため、その前後での淵の環境を比較した。

結果、
・出水後水深が深くなった地点には「周辺が岩盤を主とした河岸構成であること」そして「砂防ダムに近い」という特徴があった。そのため出水によって河床が浸食を受けた場合に、河岸からの砂礫の供給があまり起こらず、産卵床条件が整わない場合が多いと考えられる
これは「アーマーコート化」という、砂防ダム下流の河岸が浸食され、底質が固化し動きにくくなったり岩盤が露出するという現象からも説明がつく。

・これに対し、出水後水深が浅くなった地点では「周辺が砂礫を主とした河岸構成であること」そして「砂防ダムから遠いこと」という特徴がみられた。これは出水が起こった場合、淵の周辺の河岸から砂礫の供給があったため、産卵床条件を満たすことができたと考えることが可能である。

今後の予定と課題
・出水の有無に関わらず、常に産卵床を形成できるような淵の周辺環境とはどのような条件なのか、ということを中心に考える
・そのために必要な淵の物理的条件をみるため、これまでのデータである淵長、最深部水深、淵上流の流形、淵尻の産卵床条件の他、淵河岸の材料構成、河床の粒度、勾配、川幅を調査し、数量化することを考えている
・最終的に、主に雨量データを中心とした出水・洪水の規模を定義づけ、攪乱の大小によって河床状態がどう変化するかを観察する
サクラマスが産卵期に入っているため、定期的に踏査を行って産卵床を観察する予定である

以上の発表に対し、他分野の教授や院生の方から頂いた質問・指摘・批評が次のようなものです。

サクラマスが対象なのにも関わらず、ほとんど発表に出てこない。砂礫ばかり。今後の調査に期待。
生態学:N夫先生)
→産卵床調査の結果を待っていてください

陸封型であるヤマメと産卵床の粒度との関係はどうなっているのか?
(水理:K谷さん)
→ヤマメは雄が主でサクラマスの産卵に混じって放精を行う…のですが、ヤマメ単体での産卵については把握できていません

砂防ダム流域と自然河床との環境比較は行わないのか?
(院生:Aさん)
→厳密に「ダムの有無」のみで同じ条件を揃えている環境は存在しないので、行わないというよりもできないです

「今後の予定」のところ全部やるの? 残り時間と相談して継続調査を頑張ってください
(農地:I川先生)

(出水前後の比較をした)8月のデータは意味のあるものなのか? 僕にはその意味が感じられない。河川はもっと長期的に安定するもので、出水した前後1,2ヶ月で変化があったか否かというデータに意味のあるものだとは思えない。川を見ている人間ならそんなことは言わない。そんな基礎的研究とかで卒論とするのは、僕の研究室の学生なら認めないな。
(水文学:K原先生)

サクラマスの産卵場所についての今後の現場データに期待するが、研究目的が少々広いと感じる。砂防ダムの影響を調べるのであれば、他に対照河川のデータが必要かもしれない。残り時間を考えれば、空間的特長に絞って解析を進めたほうがまとまりやすいと思われる。
また、データを集めるのはいいけれど、「卒業論文」としての形をつくるためのことも考えるように。
(水文学:K原先生)

など、厳しいご意見も寄せられました。僕も感情的に受け答えしてしまった点もありましたが、なんにせよ非常に参考になったと思います。



自分たちの研究室の発表を聞き、他の研究室の発表を聞き、そして教授からの意見を聞き。感じたことは様々ですが、今後に繋げる上で非常に重要だと感じたことがあるので、少し書いておきます。

僕たちの研究では、「仮説検証」を行う場合と「事実検証」を行う場合があります。前者はある疑問に対して自分で何らかの仮説を立て、それを立証する形で研究を進めていくもの、後者はある疑問に対し、その周辺の調査を行ったり考察を加えていくかたちで研究を進めていくもの。仮説検証は仮説が立証できればOKですが、成り立たない場合もあるために仮説の立て方がとても重要なファクターとなります。逆に事実検証はとにかく調べて分かったことをまとめるという作業が主になるため、知りたい事実がデータから読み取れないということもあります。
僕がやろうとしているのは事実検証で、そのためにはまずデータを集めないことには話が進みません。とはいえ集めればいいというものではなく、「何が知りたいか」そして「何のために知りたいか」ということを明確にした上で様々なデータを収集する必要があります。
そういうことがひとつ。


そして(これは僕が教育実習をしたときにも感じたことなのですが)、「自分の考えていることを他人に伝えるとき、『何を伝えたいか』『どうして伝えたいか』ということを明確にする」ことが不可欠であるという事実です。
例えば自分の研究において前提として進めていた事柄があったとします。僕はそれを周知の事実として捉えるのではなく、自分の研究を知らないひとにも一から分かるように説明をする義務があるということです。それが卒論発表という場ならなおさら。

具体的には、研究を行うスケール・スパンの話です。僕がやろうとしている河川というフィールドは、非常に長いスパンで安定性を保っています。長い目で見たときに出水や渇水は平均値の中に組み込まれます。しかし、僕が研究対象として見ようとしたのは、今回の河川の大規模出水による攪乱によって影響を受けた生物の生態そしてその環境なので、河川を対象とする研究としては非常に短い時間スケール(月単位)で話を進めている訳です。今回そのスケールの説明が足りなかったため、伝わりにくい発表になってしまったと感じています。



ともかく、発表は終わりました。たくさんの得たものを糧に、僕はこれから2月の卒論発表会に向け、調査を続けます。残り4ヶ月。大学生活はあとそれだけしか残されていません。

*1:農学部にある3つの学科のうちひとつである環境学科と称されているうちの半分、地域環境を指す。